「ある本を読んでたら面白い話が載っててさ……」
「ほう」
「子どもが部屋の壁に落書きをするんだよ。で、最初はそれを怒ってやめさせていたんだよ」
「まあ当然ですよね」
「でもあるときから、壁に落書きをしたらご褒美にお金をあげるようにしたんだよ。そしたら、子どもは喜んで落書きをするわけ。でね、あるときパタリと、お金をあげなくなった。そしたらなにが起こったと思う? 子どもたちが落書きをしなくなったんだよ」
「なるほど」
「でさ、俺は思ったのよ。あれ、いまの俺も同じなんじゃねえか? ってさ……」
昨日、仕事を辞めるという会社の先輩とランチにいったときにこんな話を聞いた。
真っ白な壁紙いっぱいに好きな絵を描ける楽しみなのか、親を困らせたい可愛いイタズラ心なのか。子どもたちは最初、とても純粋な動機で落書きをしていたのだと思う。
それがいつからか、お金を得ることに目的がすり変わり、落書きをするようになってしまった。
そんなエピソードを引き合いにして、会社を辞めようと思ったきっかけを話してくれた。
個人的には、仕事に人生の悦びや楽しさをそこまで追い求めていないので、お金のために働くでも全然良い。ただ、先輩の話しを聞いていて、自分がいまどんなモチベーションで働いているのかを定期的に確認する作業は大切だなと思った。